さわやかな春のそよ風もあっという間に過ぎ去り、6月のジメジメした梅雨の後には、すぐに本格的な暑さが待っています。炎天下のグラウンドや熱のこもった体育館での練習や試合で、体が思ったように動かず、力が発揮できなかった経験はありませんか?

暑いとカラダはどうなる?

涼しい環境に比べて、暑熱※1環境下では、持久性運動能力は低下します。ヒトの深部体温※2は通常37℃前後に保たれています。体を動かすときに筋肉から発生する多量の熱に加え、暑いときには体外からも熱が侵入してきます。これらの熱がそのまま体に蓄えられると、深部体温が上昇し、約40℃に達すると疲労困憊して動き続けることができなくなります。暑熱環境下で長時間の運動を行う際、最も重要なポイントは、体温の過度の上昇を防ぐことであり、そのためには、体熱を上手に放出する必要があるのです。
※1 暑熱…夏場の炎天下における熱さ
※2 深部体温…環境温度の影響を受けにくい心臓や脳などの身体深部の温度

熱放散機能とは?

私たちの体には、暑さにさらされたとき、体温が上昇しすぎるのを防ぐために、熱を体外へ逃がそうとする2つの機能が備わっています。私たちの体は、この2つの反応を駆使して、熱を放散しています。

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皮膚血流反応
皮膚の血管を拡張させ、血流を増やします。多量の体熱が体内から血液によって皮膚に移行し、皮膚の表面から熱が体外へ放出されます。
発汗反応
皮膚血流反応だけでは熱を逃がすことができなくなると、発汗が始まります。汗が蒸発するときの気化熱により熱放散を行います。

熱放散機能を鍛える暑熱順化

これらの熱放散機能は、鍛えることによってその機能を向上させることができます。普段から体を暑さに慣らすことで、上手に体温を放散することができるようになるのです。このように暑さに対応できる体になることを「暑熱順化(しょねつじゅんか)」といいます。「暑熱順化」によって起こる体の変化を見ていきましょう。

体の変化1 汗の「かき方」が変わる

皮膚の血流量が増え、少々の暑さであれば、汗をかくまでもなく、熱を放出できるようになります。また、皮膚血流反応だけでは、間に合わないと判断した場合は、①早いタイミングで②多くの汗をかけるようになり、効率的に体熱を放出できる体に変化します。

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体の変化2 汗の「質」が変わる

久しぶりに運動をすると汗がベタベタだった経験はありませんか?ベタベタの汗は、水分と一緒に体に必要な「ナトリウム」までも体外に捨ててしまっている良くない汗です。暑熱順化すると、汗腺の働きが良くなり、汗が体外へ出て行く前に「ナトリウム」を体内へ再吸収できるようになります。そのため、大汗をかいても、適切な水分を補給すれば、体液バランスが回復しやすくなり、脱水症状や熱中症のリスクを下げることにもつながります。

暑熱順化の方法

それでは、どのようにして暑さに慣れていけばよいのでしょうか。運動を行い汗をかくことも有効ですが、普段の生活を少し変えるだけでも、暑さに対する体の対応は変わります。いずれの場合でも、適切な水分補給を行いながら、無理のない程度に行いましょう。

冷房に頼らない生活を心がける

冷房の効いた涼しい部屋だけで過ごし、汗をかく必要のない生活を送っていると、急に暑い環境にさらされたときに、体温を調整する機能を発揮することができません。冷房の設定温度を高めにする、朝夕は室内に外気を取り入れるなど、冷房に依存しすぎない工夫をし、本格的に暑くなる前に、少しずつ体を暑さに慣れさせましょう。

入浴

特に夏はシャワーだけで済ませてしまいがちですが、しっかりお風呂につかって、体を芯から温め、汗をじっくり出すことは効果的です。お風呂上がりは急激に体温を下げるのではなく、うちわなど自然の風で汗を蒸発させて、気化熱で体温を下げるようにしましょう。

有酸素運動

ウォーキングやジョギングなど、汗をかきながら行う有酸素運動はとても有効です。さらに、衣服を調整することで、寒い季節や気温が低い朝夕の時間帯でも、汗をかく環境を人工的に作ることができ、より効果的に暑熱順化を促すことができます。ただし、高温多湿の環境下や、体調がすぐれないときに、厚着をして運動することは避け、常に適切な水分補給を心がけましょう。


一度暑さに順化しても、やめてしばらくすると、その効果は元に戻ってしまいます。そのため、一時期だけでなく、一年を通して、普段から汗をかく環境を作ることが大切です。暑さに負けず、高いパフォーマンスを発揮するために、今から暑さに強い体を作っておきましょう。