徐々に気温が高くなり、大会や合宿など、暑熱環境下で運動する時間が多くなるこの時期に一番注意しなければならないのが「熱中症」です。今回は、先月号で紹介した内容を参考にしながら、熱中症の症状と予防法について紹介します。

熱中症とは?

熱中症とは、高温多湿が原因となって起こる障害を総称したものです。人の体には、体温が上昇しすぎないように、熱を放散する機能が備わっています。この「熱放散」と、代謝によって熱を発生する「熱産生」のバランスが保たれることで、私たちの体温はほぼ一定になるよう調整されています。(6月号「暑いとカラダはどうなる?」参照)
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このバランスが崩れ、熱産生量が熱放散量を上回ると、熱いままの血液が全身をめぐり、体内に熱がこもることで熱中症が発生します。

熱中症の病型

熱中症を4つの病型に分けて、それぞれの症状とこれらが起こる仕組みを見ていきましょう。

熱失神
炎天下で長時間立っていたり、立ち上がったりすると、血液が下肢にたまり、血圧が低下します。脳へ送る血液が減少することで、一過性の意識消失(失神)やめまいが起こります。

熱けいれん
汗には水分だけでなく塩分も含まれています。大量に汗をかいた時に水だけを補給すると、血液中の塩分濃度が低下し、血液が各臓器に十分に行き渡らないため、痛みを伴う筋けいれんが起こります。

熱疲労
体熱を放散するために皮膚表面に血液が集中し、さらに筋肉への血液供給も増えると、心臓に戻る血流量が減少します。最終的には脳への供給量が減少し、めまいや頭痛、吐き気、倦怠感、脱力感などの症状がみられます。熱疲労では体温は正常、もしくは少し上がりますが、40˚Cを超えることはありません。

熱射病
熱疲労がさらに進むと、発汗や皮膚血流反応(6月号「熱放散機能とは?」参照)ができなくなり、体温が40˚Cを超えてしまいます。この状態では意識障害がみられ、反応が鈍い、言動がおかしいといった状態になり、さらに進行すると昏睡状態になります。熱射病は命の危険のある緊急事態であり、救命できるかどうかはいかに迅速に体温を下げられるかにかかっています。

実際の例では、いくつかの症状が組み合わさっていると考えられます。したがって、救急処置は下図のチャートに従い、「意識障害の有無」「水分は摂取できるか」「症状改善の有無」によって重症度を判断し、対処するのがよいでしょう。

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熱中症の予防

熱中症を予防するためには特に以下の5つに気をつけましょう。

①適切な水分補給を行う
②体を暑さに慣らしておく(6月号「暑熱順化」参照)
③環境温度に注意する
④日々の体調管理を行う
⑤できるだけ薄着で、直射日光は避ける

今回は①水分補給と③環境温度について詳しく紹介します。

①適切な水分補給を行う

運動中の発汗量

運動中の発汗量は多い人では2時間で1L以上にもなります。多量発汗による脱水が体重の2%以上になると運動能力は著しく低下します。日頃から運動の前後で体重を量って記録し、体重の変化を確認しましょう。運動前後での体重減少が2%以内に留まっていれば、充分許容できる範囲と言えます。

体重の2%とは…体重50kgの人の場合50kg×0.02=1kg
練習後の体重が50kg–1kg=49kg以内におさまればよい。

適切な水分とは?

汗の量には個人差があり、適切な水分補給量は必ずしも一律には決まりません。そのため、「喉のかわき」に応じた適切な水分を補給しましょう。(下表参照)

タイミング 喉がかわく前に飲む。
集団で運動をする場合は30分程度で休憩を入れる。
温度 5〜15˚Cに冷やす。(冷蔵庫から出したては約5˚C、常温は約25˚C)
1日に約2L。1回の量はコップ1杯程(約200ml)
種類 水分だけでなく、汗で失われる「塩分」も補給しましょう。また、エネルギー補給を考慮して「糖分」を含んだものが効果的です。一般のスポーツドリンクも利用できますが、余り糖質濃度が高くなると胃にたまりやすく好ましくありません。

塩分:0.2%程度の食塩水(1Lのペットボトルに約2gの食塩)
糖分:糖質濃度4〜8%程度

OK:バイオ茶、麦茶、スポーツドリンク
NG:緑茶、コーヒー、紅茶などカフェインの入った利尿作用があるもの

③環境温度に注意する

気温が高いとき、また同じ気温でも湿度が高いときほど、熱中症の危険性は高くなります。暑い時期の運動はなるべく朝夕の涼しい時間帯にするなど、環境温度には常に注意する必要があります。
環境温度を総合的に評価する指標として、WBGT(湿球黒球温度 Wet-Bulb Globe Temperature)が用いられます。WBGTは乾湿温度計と黒球温度計から、気温、湿度、輻射熱の3要素を測定し算出されます。しかし、現場ではWBGTが測定できない場合もあるため、簡易的に気温と湿度からWBGTを推定できるように作成されたのが、下の表です。
推定された値を「熱中症予防のための運動指針」と照らし合わせ、環境温度に応じて運動の量や強度を調整しましょう。
※日本生気象学会「日常生活における熱中症予防指針」Ver.3より

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この表は気温と湿度から簡単にWBGT値を推定するために作成されたものであり、室内で日射が無い状態を仮定して計算されたものです。正確なWBGT値と異なる場合もあります。 特に屋外においては輻射熱が大きいので注意が必要です。

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熱中症を予防することは、効果的なトレーニングを進めることにも通じます。正しい知識を身につけ、スポーツ活動に適用しましょう。

〈参考文献〉
・(公財)日本体育協会「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」
・環境省「熱中症環境保健マニュアル」