冬期トレーニングも終盤に差し掛かり、いよいよシーズンに向けてカウントダウンが始まったところではないでしょうか。皆さんのトレーニング計画は明確になっていますか?
準備期から試合期に入るためには、その間に「試合前期」と呼ばれる移行期間を設けることが重要です。この期間では、試合感覚を取り戻し、競技スキルの向上を意識したトレーニングを行います。先月号のディスパッチでは、「漸進性の原則※1」と「過負荷の原則※2」を紹介し、主に負荷のかけ方について紹介しました。今回は、トレーニングの内容や負荷のかけ方をそれぞれの競技で必要な体力要素に合わせて考慮しなければならないという「特異性の原則」について紹介します。また、試合前期に行うトレーニングのポイントを再確認し、シーズンに向かって効果的なトレーニングを実践していきましょう。

※1 漸進性の原則(ディスパッチVol.89 2014年9月号で紹介)
体力を向上させるためには、トレーニングの強度も徐々に上げていかなければならないという原則

※2 過負荷の原則(ディスパッチVol.94 2015年2月号で紹介)
トレーニングを行うときは、ある一定以上の負荷をかけないと身体は強くならないという原則

特異性の原則とは?

冬期トレーニングの期間中、基礎体力の向上に向けて様々なトレーニングに取り組んできたことでしょう。準備期から試合期に向かっていく段階で重要なのは、それらの基礎体力を競技特性に適用させることです。「特異性の原則」とは、「トレーニング効果はトレーニングしたようにしか高まらない」という原則であり、どんなにキツいトレーニングを行っても、それが競技特性と結びつかなければ意味がないと言い換えることができます。せっかく向上させた基礎体力が試合に生かされないのではもったいないですね。
また、特異性の原則は、SAIDの原則とも呼ばれています。SAIDとは、Specific Adaptation to imposed Demandsの略で、「身体に一定の負荷をかけると、身体はその負荷に見合った適応を示す」という意味があります。
この原則を適用するときには、まず競技を分析し、その競技に必要な体力要素を抽出する必要があります。そして、その体力要素を向上させるためのトレーニングを行います。しかし、それは競技の動きをそのままコピーして行えばパフォーマンスが上がるということではありません。そもそも、それが正しければ、究極に特異的なトレーニングは競技そのものということになってしまいます。トレーニングにおいては、競技に必要な体力要素を効果的かつ効率的に高めるトレーニング方法を選択して実施することが重要となります。
例えば、「持久力」という体力要素を一つとっても、そこには様々な持久力があります。マラソンのように「一定の運動を長い時間続ける能力」なのか、バドミントンのように「瞬発的な運動を繰り返す能力」なのか、バスケットボールのように「立ったり歩いたりなどの軽い負荷の運動の中で急なパワー発揮を求められる能力」なのか、それぞれの競技によって求められる「持久力」は変化します。
しかし実際のトレーニングの現場では、瞬発的な運動を繰り返す持久力が必要な競技であるにも関わらず、長い距離を延々と走り続けている練習をよく目にします。「準備期」の段階では、基礎体力の向上に向けて一定の運動を継続する持久力は大切です。しかし、特異性の原則を考慮した場合、準備期に獲得した「一般的な持久力」を「競技で必要な持久力」へと変化させる必要があるのです。

トレーニングを実践するにあたって

試合期に向けてトレーニングをより充実したものにするためには、
①現在行っているトレーニングは何のために行っているのか
②選手にフィールド上でどんなパフォーマンスを発揮してほしいのか
を明確にする必要があります。
選手がヘトヘトになりながら間違った走り方で何本もダッシュをしている光景を見ることがあります。それは「選手をヘトヘトにさせるための練習」でしかなく、実際の試合の中で「選手にヘトヘトになりながらプレーしてほしい」ということではないはずです。それよりも選手の体力レベルを正しく評価し、正しい動作でトレーニングを行うことが重要ではないでしょうか。

試合前期の練習

試合前期では実践に近い練習を取り入れ、試合に勝つためのトレーニングを行います。(ディスパッチVol.89 2014年9月号参照) 試合前期の後半は、戦術や戦略を理解すると同時に、高負荷・高頻度の筋力トレーニングの量を減らしていきます。試合前期のトレーニングについてポイントやメニューの組み方の例を紹介します。

準備期(鍛錬期)
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ある程度の負荷を身体にかけた状態で競技練習を行うことで、体力のベースアップを図る。競技練習も戦略や戦術ではなく、基本スキルなどを行う。

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試合前期
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より身体がフレッシュな状態で競技練習を行い、後半にフィジカル練習を行う。競技特性を考慮し、パワー系のトレーニングや走る距離やスピードも実践に近いものにする。

※疲労をためすぎないことがポイントなので、スキル練習がハードな日は、体幹の補強などを行う。

試合期を目前に控えて、心も身体もしっかりと準備をしていかなければなりません。そのためにも、1日1日の練習を目的を持って行い、試合で発揮したいパフォーマンスを明確にして練習に取り組む必要があります。試合に向けてもう一度トレーニングメニューを見直し、シーズンに向けて大切なこの時期を有効なものにしましょう。