『コンディショニング』という言葉を聞いて皆さんは何をイメージしますか? スポーツ選手が、体の調子が悪く、思うようなプレーができなかった時に「コンディショニング不足」と言ったり、逆に体の調子が良い時には「コンディショニングが良かった」と言うように、『コンディショニング』は『体調』を示す言葉として使われているイメージがあります。また、マッサージやストレッチなどで体をケアすることを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。
しかし、本来コンディショニングとは「体の準備を整える」ことを指し、体のケアに限らず、競技パフォーマンスに関連する体力要素の向上や動きづくりなども「コンディショニングトレーニング」として定義されています。また、栄養面や休養面もコンディショニングの重要なパートで、これらがすべて機能して初めて「コンディショニングの良い状態」と言えるでしょう。
今回は、この夏に来日したスコット・フェルプス氏に、この『コンディショニング』について、特に体力の向上、動きづくりの点から海外の選手はどのような意識を持って取り組んでいるのか伺いました。

コンディショニングトレーニングの重要性を考える

フェルプス氏にコンディショニングトレーニング(以下、コンディショニング)についてどのような考え方を持っているのか聞いたところ、「コンディショニングは、スポーツパフォーマンスを高めるために行い、競技やポジションに必要な体力要素や動きを知ることが重要である」と答えてくれました。
例えば、野球のピッチャーが「1試合投げ抜く体力をつけること」と、サッカー選手が「1試合走り続ける体力をつけること」のトレーニングは、どちらとも同じで良いのでしょうか。さらに、野球においては、内野手は打球に素早く反応して、 様々な方向への瞬間的な動きが求められるのに対して、外野手は打球に反応し動き始めた後に、素早くボールが落下するポイントへ移動するための加速が求められるように、それぞれのポジションにおいても求められる動きは異なります。
それぞれのスポーツやポジションに関連する体力要素を理解してトレーニングを行うとともに、競技中にどのような動きが行われるのかを分析して「動き」のトレーニングを行う必要があります。つまり、コンディショニングにはスポーツに必要な「動きのリハーサル」の役割があるのです。

どのように取り組まれているのか

海外ではこのコンディショニングは練習メニューの一つとして当たり前のように取り組まれています。SAQトレーニングのような、スピードやアジリティを高めるためのトレーニングも、練習メニューの中に組み込まれており、多くの選手が動きづくりに取り組んでいます。
また、ウェイトトレーニングや体幹トレーニングで筋力やバランスを強化した後には、スプリントトレーニングやアジリティトレーニングを取り入れ、鍛えた筋肉を動きの中で使えるようにコンディショニングしています。
それに対して、日本の場合は競技スキルや戦術練習が重要視され、コンディショニングやSAQトレーニングなどの動きづくりのトレーニングに時間が割かれていないように感じます。走る・跳ぶ・方向転換などのスポーツの基礎となるスキル(ゼネラルスキル)は本来コンディショニングを通して身につくものですが、なかなか実践されていないのが現状です。
ウォーミングアップ直後からボールを使った競技スキルの練習や戦術練習などに取り組んでいるチームが多く、体力強化の一環として、フットワークや補強トレーニングなどのコンディショニングに取り組んでいるチームがあったとしても、どこか練習の中の儀式的な時間になってしまい、選手はトレーニングの重要性を理解しないまま行っているのではないでしょうか。
フェルプス氏は、コンディショニングの内容はもちろんのこと、すべての動きが正しく行われているかを重要視しています。走動作やジャンプ動作一つをとっても、姿勢や目線、接地など正しいスキルで行われているかが大切で、正しい動きを一つ一つ積み重ねていくことがコンディショニングでは重要だと語ってくれました。

コンディショニングを練習に取り入れる方法

トレーニングをする上では欠かせないコンディショニングですが、普段の練習やトレーニングの中で効率良く取り入れる方法はあるのかフェルプス氏に伺いました。

技術練習の合間に取り入れる

技術練習や戦術練習を行う前に、それぞれの練習で必要な動きをコンディショニングの中でトレーニングする方法があります。切り返し動作が多く行われる練習の前には、プログラムアジリティで方向転換動作の学習を行ったり、より実戦に近い練習の前には、コンディショニングの中でリアクションのトレーニングやランダムアジリティトレーニングを行うなど、練習メニューに合わせてコンディショニングを行うことが可能です。そうすることで、日々の練習に変化をつけることができるとともに、段階的にトレーニングを行うことができます。

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ポジション毎にトレーニングを行う

ゼネラルスキルは、基本的にどのスポーツやポジションでも必要となる運動スキルですが、同じスポーツでも、ポジションによって動く方向や、動く距離、動き方は変わります。特にフェルプス氏が指導しているアメリカンフットボールでは、オフェンスの中でもポジションによって大きく動きが異なることから、すべての選手が同じメニューを行うのではなく、ポジション毎に選手のグループを作ってコンディショニングを行っています。
また、それぞれのグループでトレーニングリーダーを決めて、モチベーションが高い選手が他の選手を指導、サポートするような仕組みをとっています。
普段の練習の中では、どうしても競技スキルの向上ばかりに目がいってしまいますが、競技スキルの基礎となる動きをコンディショニングでトレーニングすることはもっと重要です。フェルプス氏は、コンディショニングの重要性を、「バスケットコート上に10人の選手がいて、ボールを持っているのはたった1人。残りの9人は、走ったり方向転換をしたり様々な動き駆使して素早く動かなければならないのに、なぜ速く動くための練習をしないのか? その動きをコンディショニングでトレーニングする必要がある」と例を挙げて解説してくれました。
準備期も後半に差し掛かり、秋のシーズンに向けて体力的にも技術的にも準備を進めて行く時期です。夏に高めた基礎体力をコンディショニングを通して競技パフォーマンスの向上に結びつけましょう。


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スコット・フェルプス
スピードクエスト社代表
日本SAQ協会テクニカルアドバイザー
現役時代は白人最速のスプリンターとして活躍。故障を原因にトレーニングコーチに転身。NBAやNFLなどのトップアスリートのスピードトレーニングコーチとして活躍し、現在は高校生や中学生などのジュニアアスリートの育成に尽力している。