秋のシーズンに向けて、強化トレーニングや練習試合などで体力と競技力を向上させ、また暑さに負けないよう体力をつけるためにトレーニング量が増えている時期ではないでしょうか。そんなときこそ、スポーツ障害を起こさないように気をつけなければいけません。スポーツ外傷(大きな力が加わって起こるケガ)を起こすほどではありませんが、微小な損傷の繰り返しによって、徐々に痛くなってくる慢性的な機能障害のことを「オーバーユース症候群」といいます。慢性疲労から慢性障害を負い苦しんだり、重度の障害では競技生命に支障をきたす場合もあります。今回は、成長期に特に気をつけてほしい、オーバーユースについてご紹介します。

オーバーユースで起こる障害

疲労骨折:
一度では骨折に至らない程度の応力が、骨の同一部位に繰り返し加わることにより発生する骨折です。中足骨(第2、第3)・脛骨けいこつ · 腓骨ひこつなどの下肢の負荷の集中する部位や肋骨ろっこつなどに多く起こります。

野球肘:野球の不適切な投球動作や投げ過ぎで起こる肘の障害のことです。

テニス肘:
テニスなどのラケットを使用するスポーツをする人にみられる上腕骨外側上顆炎じょうわんこつがいそくじょうかえんまたは上腕骨内側上顆炎じょうわんこつないそくじょうかえんのことです。

腰椎分離症:
脊柱の椎骨ついこつにある椎弓ついきゅうの部分で骨の連続性が断たれてしまい、椎体ついたいと椎弓が離れてしまった状態のことです。

ジャンパー膝:
ジャンプ動作が要求される、バスケットボール、バレーボール、ハンドボール、陸上競技(走幅跳、走高跳選手)などの種目で、膝蓋骨しつがいこつ膝蓋腱しつがいけん(膝蓋靭帯)の接合部に大腿四頭筋の収縮筋力が繰り返しかかることで、腱の微小断裂や変性が生じる障害のことです。

シンスプリント:
多くは脛骨過労性骨膜炎を指し、下腿内側に位置する脛骨の下方1/3に痛みが発生することが特徴です。痛みは脛骨に沿ってうずくような鈍痛で始まります。ある一点に集中する痛み(この場合は疲労骨折の可能性もある)とは違い、筋肉が骨に付着するラインに沿って起こります。(ディスパッチVol.97 2015年5月号参照)

アキレス腱周囲炎:
アキレス腱炎は、繰り返しのストレスによりアキレス腱に微細な部分断裂やきずあと(瘢痕化はんこんか:機能が低下して修復した状態)が生じており、腱の変性が認められます。アキレス腱はパラテノンという薄い膜で覆われていますが、この部分に炎症を生じた場合をアキレス腱周囲炎といいます。

オーバーユースが起こる原因

トレーニング量が多すぎるとき
トレーニング負荷が大きすぎたり、頻度が多すぎたり、一つの運動に長い時間を費やしたり、繰り返し行うことにより、一部の筋肉や腱、関節などを酷使してしまうことで起こりやすくなります。

トレーニング方法が誤っているとき
競技の専門的な動きや筋力トレーニングのフォームなどが誤ったままその動きを繰り返し続けたとき、思ってない部位に大きな負担がかかり続けて障害が起こります。

休養、休息、栄養不足
休養が足りないことは、説明の必要もない明確な原因です。また、休養中に身体疲労を修復させるバランスの良い食事が必要です。いくら他の点が問題なかったとしても、栄養不足のままでは身体の損傷部位はしっかりと修復されず、損傷が徐々に積み重なり、身体が強靭になる前にオーバーユース症候群になってしまう場合があります。

上記以外にも、筋力や筋持久力がしっかりと発達していない、体幹が安定していない、筋肉の不均衡が起こっている、姿勢が悪いなどの原因も考えられるので、これらを改善することが大切です。

オーバーユースを予防する

トレーニングの量、強度、間隔を調整する
疲労が大きかったり特定の部位に痛みを感じたときには、そのトレーニングの量と強度を低くして、積極的休養をとるようにしましょう。不快感や痛みを感じた場合は、間隔を空けて休養期間を設けます。

運動量を徐々に増やしていく
運動量や時間は、徐々に増やしていくことが大切です。中高生の場合、プライオメトリクスなどのジャンプ力を高めるトレーニングや、重りを使用した筋力トレーニングなどでは、一気に上げるのではなく、5〜10%の割合で徐々に増やすなどの工夫をすることで予防できます。

適切なフォームで行う
新しいトレーニングに取り組むときは正しいフォームで行い、新しい器具を使う場合も適切な使い方を充分に把握するようにしましょう。

様々なトレーニングを取り入れる
筋力トレーニングを中心に行っているのであれば、ウォーキングやジョギングまたは水泳など、違うトレーニングをローテーションして行うことで、身体の不均衡を把握したり、より様々な動きや負荷にも耐えることができます。

身体症状を診ながらトレーニングを行う
次の4つの症状でその後の対策を変えて行います。

ステージ1:動く前に不快感はあるものの、ウォームアップで消えてしまう
→不快感を再度感じたり痛みが発生しなかった場合は、注意しながらトレーニングを行う
ステージ2:ウォームアップで不快感は消えるものの、終了後に再び現れる
→不快感や痛みを感じない程度に負荷やペースを落としてトレーニングを行うが、しっかりと休養をとって、回復させることを目的とする
ステージ3:トレーニング中に不快感や痛みが悪化する
→トレーニングは中止して専門医に診断をしてもらい、原因をはっきりさせてまずは回復につとめ、症状がよくなった段階で再開する
ステージ4:慢性的な痛みが常に発生する
→専門医の診察を受けて指示に従う