先月号では「柔軟性」に着目し、競技パフォーマンスの向上だけでなく、傷害予防や体力向上にも重要な要素であることをお話ししました。
スタティックストレッチを行った後に、しっかりとダイナミックフレキシビリティを行うことで、パフォーマンスの向上が見られたという研究もあることから、それぞれのストレッチの役割を理解して、正しく取り組むことが重要です。今月号の前半では、パートナーに身体をサポートしてもらい筋肉を伸ばす、上半身のペアストレッチを紹介します。後半で紹介するトレーニングの内容と併せて取り入れてみましょう。

ペアストレッチの効果

ペアストレッチは主にスタティックストレッチを中心に行われます。一人で行うセルフストレッチでは、しっかりと意識して行ったとしても、筋肉の伸びには限界があります。パートナーにサポートしてもらうことで、より効果的に筋肉を伸ばすことが可能となります。また、会話をしたり触れ合いながら相互のストレッチを行うことで、友人同士や家族の間など、コミュニケーション手段としても活用できます。
セルフストレッチの場合、特に硬くなっている筋肉を伸ばすときには、伸ばしている筋肉以外の筋肉に力が入りやすくなり、リラックスさせることが難しくなります。その点、ペアストレッチではパートナーが足や手を誘導してくれるため、身を任せておけば自然に筋肉が伸ばされ、さらにリラックスが促される効果もあります。
また、セルフストレッチでは気付くことが難しい関節と筋肉の硬さの左右差をパートナーに確認してもらうこともできます。例えば腰を捻るストレッチでは、パートナーに伸ばしてもらうと左右どちらかが捻りにくいということがよく起こります。この捻りにくい方向が、身体の歪みの原因となるため、左右差を明確にし、改善することで傷害予防に繋がります。
さらに、セルフストレッチでは伸ばせない筋肉を伸ばすことができます。例えば体側や股関節に近い腹部の筋肉など、伸ばすことの少ない筋肉には、体脂肪が蓄積されやすくなります。自分ではなかなか伸ばせない筋肉をパートナーにストレッチしてもらうことで、さらに疲労回復や柔軟性を向上させることができます。

上半身のペアストレッチの方法

1:大胸筋、小胸筋、三角筋前部のストレッチ
(A)は両手を頭の後ろにおいて胸を張り、(B)は後ろから両膝で肩甲骨下部を押さえ、同時に両肘をそれぞれ手で押さえながらゆっくりと後方上部に引いてストレッチを行います。
2:大胸筋、小胸筋、三角筋前部、腹直筋、腹斜筋のストレッチ
(A)は両手を頭の後ろにおいて胸を張り、(B)は後ろから両膝で肩甲骨下部を、両手で上腕を前側からそれぞれ押さえます。上に軽く持ち上げながら、上半身をゆっくりと捻ります。左右それぞれ15〜10秒で3〜5回ずつ行います。
3:前腕、上腕、三角筋の前側のストレッチ
(A)はうつ伏せで腕は身体の横に置きます。(B)は肩甲骨が動かないように片手で押さえ、もう一方の手で手首を持ち上げて前方に倒していきます。両腕を同時に行うと上腕の前側のストレッチが可能になります。
4:胸部と肩前側のストレッチ
(A)はうつ伏せになり手の甲は腰の上に置きます。(B)は肘と肘とを合わせるようにゆっくりと引き上げてストレッチを行います。
5:上腕の後側(三頭筋)のストレッチ
(A)はうつ伏せになり、肩甲骨を触るように肘を曲げます。(B)は指先と肩甲骨をまとめて上から片手で押さえて肩甲骨を動かさないようにし、もう一方の手で肘をゆっくり持ち上げストレッチを行います。
6:体側部と腰部のストレッチ
(A)は仰向けになり、(B)は股関節と膝を90度に曲げ、膝が反対側へベッドより下に行くように伸ばします。その際に肩が浮かないようにしましょう。5〜10秒を左右1〜3回繰り返して行います。
7:肩甲下筋、大胸筋、上腕三頭筋、広背筋のストレッチ
(A)は両腕を伸ばし、(B)はしっかり両肩が動かないように脇下と肩甲骨を固定します。膝を90度に曲げ、ゆっくりと左右に倒しながら伸ばし、呼吸は止めないようにストレッチを行います。5〜10秒を3〜5回往復しましょう。
8:僧帽筋(上部、中部)のストレッチ
正面で両手を繋ぎます。(B)は(A)の腕を引っ張るように体重をかけ、(A)は腕の力を抜いて背中を丸めて、肩甲骨下部から背中の上部を伸ばします。15〜20秒を1〜2回行います。