大事な試合や目標とする大会でベストパフォーマンスを発揮するためには、「計画性」が必要です。試合当日にピークの状態で臨むために、1年間をいくつかのシーズンに期分けして、短期的、長期的にトレーニングを計画することを「ピリオダイゼーション」といいます。
一定の強度でトレーニングを続けても、次第に体が慣れてしまい、体力の向上が見られなくなります。体力を向上させるためには、トレーニングの強度も徐々に上げていく必要があり、これをトレーニングの「漸進性の原則」といいます。また、トレーニング負荷、量、頻度、内容など、強度を決める要素を「トレーニング変数」といいます。
ピリオダイゼーションでは、このトレーニング変数を変化させる時期を明確にし、体をトレーニングに適応させながら、試合に向けて効率良くコンディションを整えていきます。

ピリオダイゼーションの重要性

ピリオダイゼーションの長所として以下のことが挙げられます。

・目標とする試合にピークの状態で臨むことができる
・毎日の練習に目標・目的を持って取り組むことができる
・練習内容のマンネリ化を防ぐことができる
・オーバートレーニング、オーバーユース症候群の予防 など

練習量の分だけ試合で結果が出るのであればトレーニング計画は必要ないかもしれません。しかし、毎日同じ内容の練習を同じ強度で行っていても、次第にその練習に慣れ、モチベーションは低下します。スポーツによっては特定の筋肉や関節に負担がかかってしまい、オーバーユース(使いすぎ)症候群を引き起こす原因にもなります。
ピリオダイゼーションを取り入れることで目標が明確になり、毎日の練習に目的を持って取り組むことができるでしょう。また、休養や疲労回復に充てる時間を計画的に設けることができ、オーバートレーニングやオーバーユース症候群を予防することにもつながります。

ピリオダイゼーション実践

具体的なトレーニング計画の作成方法とピリオダイゼーションの導入例を紹介します。
※ピリオダイゼーションは、現在でも研究が続けられている分野であり、各期の名称や内容に関しては、研究者や指導者の間でも様々な見解が存在します。本記事で用いている用語は「すべてのアスリートのためのファンクショナルトレーニング(James C. Radcliffe著)」を参考にしています。

STEP①:目標を設定する
トレーニング計画を作るときに一番重要なのは「目標設定」です。
まず、1年間の中で最も重要な大会がある時期を決めます。目標とする大会はいつなのか、その大会でどのような結果を残したいのか、目標とする大会への出場条件(地区予選通過など)を確認し、チーム・ 個人で明確な目標を掲げましょう。
年にいくつか大会がある場合は、その中でも最も重要な大会を最終目標と位置づけ、その他の大会に関してはサブ目標と位置づけます。

STEP②:シーズンに分ける
目指すべきゴールが明確になったら、次に1年間をいくつかのシーズンに期分けします。ここでは1年間を4つのシーズンに分け、各シーズンの主なトレーニング内容を紹介します。

準備期:
鍛錬期とも呼ばれ、筋力や持久力、バランス能力など、スポーツの基礎となる体作りの期間です。目標とする試合まで時間があるので、基礎トレーニングをしっかり実施できます。体力テストを行い、基礎体力で不足している面を強化しましょう。
試合前期:
試合の1〜2ヶ月前からは、技術練習や戦術練習を主とします。
実践に近い練習を取り入れ、試合に勝つためのトレーニングを行います。試合の1週間ほど前からは筋力トレーニングなどのフィジカル面のトレーニングの量を減らします。
試合期:
試合が行われる期間であり、ここにあわせてコンディションをピークの状態に持っていきます。試合に向けて疲労をためすぎないことが重要ですが、試合期が数週間から数ヶ月間に及ぶ場合、この時期に全くトレーニングをしないと体力は低下します。体力を維持するためにも、短時間で高強度のトレーニングを行いましょう。
移行期:
試合期直後の期間です。低強度のトレーニングやレクリエーションなどによって、ケガや疲労の回復を行います。試合を振り返り、次のシーズンに向けた準備をします。

STEP③:各シーズンにおけるトレーニングの目的を決める
設定した期間の中で、トレーニングの目的や練習内容などを決めていきましょう。また、各シーズンの始めや終わりなどに体力測定を行い、トレーニング成果を評価することが大切です。その結果によって、各シーズンのトレーニング内容や量を調整しましょう。


トレーニング計画表の例

ステップ
STEP①
イベント
STEP②
シーズン
STEP③
トレーニングの目的
1月 準備期 ○筋力、柔軟性、バランス能力など、競技を行う上で基礎となる体力を向上させる(筋力トレーニング・持久走・SAQトレーニング など) ○怪我につながるような高強度のトレーニングは行わない ○トレーニングの頻度が増えるので、しっかりと疲労回復を行う
2月
3月 試合前期 ○技術練習、戦術練習を行い、試合の勘を取り戻す ○実践的なスピードトレーニングやパワートレーニングを取り入れる ○トレーニングの強度が高くなるので、しっかりと疲労回復を行う
4月 地区大会
サブ目標
試合期 ○戦術練習を主に行う ○練習試合などを行い、試合に向けたリハーサルをする ○体力を維持するため強度の高いトレーニングを適度に行うが、疲労を残さないため短時間で終わらる
5月 県大会
最終目標
6月 移行期 ○回復に専念する ○次の大会に向けたトレーニング計画を立てる
7月 準備期 ○体力測定を実施し、現在の体力レベルを知る ○筋力、柔軟性、バランス能力など、競技を行う上で基礎となる体力を向上させる(筋力トレーニング・持久走・SAQトレーニング など) ○合宿などを行い、集中的なトレーニングを実施する
8月
9月
10月 試合前期 ○技術練習、戦術練習を行い、試合の勘を取り戻す ○実践的なスピードトレーニングやパワートレーニングを取り入れる ○トレーニングの強度が高くなるので、しっかりと疲労回復を行う
11月 地区大会
サブ目標
試合期 ○戦術練習を主に行う ○練習試合などを行い、試合に向けたリハーサルをする ○体力を維持するため強度の高いトレーニングを適度に行うが、疲労を残さないため短時間で終わらる
12月 移行期/
準備期
○前半はゆっくり休み、違うスポーツを行ったりしてリフレッシュする ○後半は体力測定を行い、トレーニング内容を見直す ○基礎体力で不足している面を強化する

トレーニング計画が完成したら、後は実践するのみです。
しかし、完璧なトレーニング計画などは存在しません。ここで紹介している例にこだわることなく、選手のコンディションや大会スケジュールによって柔軟に計画することが大切です。
ピリオダイゼーションの考え方は、効率的なトレーニング計画を立てる上でとても役に立ちます。トレーニングの方針を明確にして、毎日の練習に目的を持って取り組みましょう!