現在の学校現場では、文部科学省からの指定で新体力テストを行っています。その項目としてあるのが、握力(筋力)、上体起こし(体幹筋力)、長座体前屈(柔軟性)、反復横跳び(敏捷性)、持久走(全身持久力)、20mシャトルラン(スピード持久力)、50m走(スピード走力)、立ち幅跳び(脚パワー)、ハンドボール投げ(投力)の9種目です。もちろん上記の測定項目と結果は、体力の現状を確かめ、向上させていく上では重要な指標となります。
しかし、スポーツ傷害の予防を目的とするならば、この測定項目は、目的に見合ったものではありません。今回は、傷害との関連性が高い、「筋の柔軟性」と「関節不安定性」に着目し、簡単にできるメディカルチェック項目の内容を紹介します。
傷害予防を目的としたメディカルチェック
年間を通じた選手の傷害発生状況をみると、特に5〜6月頃における新入生のケガが多いことがわかります。これは、基礎体力が低下している状態で追い込んでトレーニングしたり、不慣れな環境の中でオーバーワークになってしまうことだけが原因ではなく、傷害発生の原因となりうる身体の特徴があるにも関わらず、そのことに本人や先生が気づかないまま練習に参加してしまうことにもあります。
傷害予防を目的としたメディカルチェック項目として、筋の柔軟性、関節不安定性、アライメント、運動痛検査などが挙げられます。これらを行うことで、先生が個々の身体の特徴や傷害が起こりやすい要因を把握し、練習に参加させるかどうかを判断します。注意が必要な生徒には、それを克服させるためのトレーニングを指導しなければなりません。また、生徒も自分自身の身体状態を把握することで自己管理を行って傷害を予防し、傷害が起こった際でも早期回復、早期復帰の必用資料として有効活用できるでしょう。
筋の柔軟性テスト
筋肉は、疲労や精神的緊張などにより短縮し、柔軟性が低下します。柔軟性が低下した筋肉は、血液循環が悪くなり、疼痛を伴ったり、伸張性が低下し、関節可動域が狭くなったりして、運動機能障害の要因となります。柔軟性低下が傷害発生に影響を与える典型的な例として、以下が考えられます。
部位 | 傷害 |
大腿四頭筋 | ジャンパー膝、膝蓋関節障害(ランナー膝)、オスグット・シュラッター病(成長痛) |
腰背筋 | 腰痛 |
ハムストリングス | 肉離れ、鵞足炎、腰痛 |
下腿部 | シンスプリント、アキレス腱炎 |
現場で簡単に用いることのできる筋の柔軟性評価法として、関節可動域の制限を評価する方法を紹介します。
関節不安定性(関節弛緩性)テスト
一般的に関節の可動域が大きいことは「柔軟性に優れる」と解釈されることがよくありますが、人より異常なほどに可動域が大きい場合、逆に機能に障害をもたらしてしまいます。
一定の可動域を越えると、運動中の関節支持能力に欠けることになり、関節外傷発生の危険性が高まる可能性があります。また、関節の固定力が弱まり、軸がぶれることによって、力が入りにくい、もしくは疲労しやすい、関節の摩耗が大きいなどの症状にもつながります。なお、関節不安定性の存在は、先天的なもの(持って生まれた体質的なもの)と後天的なもの(関節の外傷経験によってくせがついてしまったもの)があります。
関節不安定性を評価する方法として、全身7カ所の関節について簡単に検査する方法を紹介します。ただしこれは現場での簡易テストであり、理想的には整形外科的な精細なテスト法が望ましいと言えます。
参考文献:山本利春(2004)「測定と評価」ブックハウスHD