秋のシーズンに備えて、基礎体力の強化から競技力向上に向かって練習メニューを見直しているチームもあるのではないでしょうか。特に準備期から試合期へと移行していく中では、スポーツの専門的スキルである「スポーツスキル」と、その土台となる「ゼネラルスキル」を結びつけてトレーニングを考える必要があります。(Vol.115 2016年11月号参照) 今回は、この夏に来日したスコット・フェルプス氏に、ゼネラルスキルとスポーツスキルの向上を目的としたトレーニングの工夫やポイントについてアドバイスをいただきました。

それぞれのスポーツに必要なゼネラルスキルを考える

ゼネラルスキルには、走る、跳ぶ、スタート、方向転換、様々なステップなどがあげられ、どのスポーツもこれらゼネラルスキルが土台となります。例えば、バスケットボールの「ドリブル走」や「ドリブルでディフェンスを抜き去る」スキルは、「走る」や「一歩目の爆発的速さ(スタート)」などのゼネラルスキルが土台となっています。この他にも、シュートやリバウンドでは、ボールを受ける位置まで素早く移動する、ジャンプをする、ボールを捕る、投げるといったゼネラルスキルが必要であるように、それぞれのスポーツスキル向上のカギはゼネラルスキルの向上にあるのです。
フェルプス氏はこれらゼネラルスキルを高めるためのコンディショニングトレーニングを重視しています。

正しい動きで反復することが大切

コンディショニングトレーニングを考える際には、それぞれのスポーツやポジションに関連する体力要素や動き(動く方向やステップ)を理解する必要があります。(ディスパッチVol.114 2016年10月号参照) また、正しい動作を獲得するためには、反復してトレーニングを行う必要があるようです。
「私が大学でバイオメカニクスや生理学を勉強していた時、運動能力の獲得についての興味深い研究に出会いました。その研究によると、“6〜10回反復することで運動能力が構築され、それを10〜14日続けることで適応が起こり、21日で永続的変化が起こる”という内容でした。つまり、新しい技術を獲得したり動きを覚えるためには1回の練習では不十分であり、時間をかけて反復することはもちろんのこと、できるようなったらそこで止めずに、何度か続けて行うことも必要です。」
フェルプス氏は、コンディショニングトレーニングを行う際にはこの考え方を用いて、トレーニング計画やドリルの反復回数を設定しているそうです。体はトレーニングによって与えられた刺激に反応して、その刺激に見合った適応を示します。(特異性の原則)
ただやみくもにドリルを繰り返すだけではなく、正しい動きを意識して行うことが非常に重要とのことでした。

様々なバリエーションのトレーニングを行う

動きを身につけるためには、トレーニングの意味を理解して反復することが重要ですが、単調な反復練習ではトレーニングへのモチベーションもなかなか高まりません。フェルプス氏がドリルを反復して行う上で工夫していることはあるのでしょうか。
「加速トレーニングを行う時に、単純に“ダッシュを20本やろう!”といっても選手たちにはキツいイメージを与えてしまいがちです。20本を走ること自体が目的となってしまって、加速に必要な動作に意識が向かず、ただ走っただけという結果しか残らないのではないでしょうか。このような場合、トレーニング器具の使用や鬼ごっこ、リレーなどによる競争意識を利用すると、反復練習でも選手に様々な刺激を与えながら行うことができます。例えば、加速トレーニングに関する4つのドリルを、それぞれ3回ずつローテーションで行い、それを3セット行う。これだけで4種類×3回×3セットの計36本ダッシュを行ったことになります。加速トレーニングに限らず、側方への動きや方向転換など様々なトレーニングにも応用できるので、その日の練習内容に合わせてトレーニングを組み合わせていけば選手たちも飽きることなくトレーニングに取り組んでくれるでしょう。」

トレーニング例

A:レット・ゴー[1] 3セット

選手はまっすぐの姿勢で立ち、パートナーは選手の正面から両肩を支えます。選手はまっすぐの姿勢を維持したまま、少しずつ体を前に傾けます。パートナーは合図で両手を放し、選手は前方に走り出します。前傾姿勢を維持し、地面を押して進むよう意識します。

[動画がご覧いただけます]

B:レット・ゴー[2] 3セット

[1]をタオルなどをベルト代わりにウエストに巻きつけて行います。

[動画がご覧いただけます]

C:レジステッドラン(バイパー)3セット

選手の背後から穏やかな抵抗をかけ、選手は前方へ走ります。パートナーも徐々に前進しながら負荷をかけすぎないように注意しましょう。

[動画がご覧いただけます]

D:鬼ごっこ 鬼2セット・子2セット

鬼はパワーポジション(スタート姿勢)で構え、子は間隔をあけて長座で座ります。子は素早く立ち上がりゴールラインに向かってダッシュし、鬼は子が立ち上がる動きに反応してスタートします。
スタートからゴールまでの距離は5mくらいに設定し、選手の能力に合わせて調整しましょう。また子のスタート姿勢を、体育座りやうつ伏せ、腕立て伏せの姿勢などいろいろなパターンで試してみましょう。

[動画がご覧いただけます]