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■慢性の痛みをつくらないために

腰、膝、肩、肘などに慢性の痛みを持っている選手は多いはずだ。ケガがとっくに治ったはずなのに、いつまでも痛みが競技生活を脅かす・・・。慢性の痛みにどのように対処していけばいいのか考えてみよう。


■治っているはずなのに痛むのはなぜ?

  1. 急性痛と慢性痛の違い
    スポーツにケガはつきものです。そして、ケガをすれば多かれ少なかれ痛みがあります。例えば足首をネンザすれば、すぐに腫れて痛くなります。このように、痛みとその原因との関係がはっきりしているものは「急性痛」と呼ばれます。
    一方、ケガがすでに治っているはずなのに、いつまでもその部分に痛みが残っている場合があります。このような痛みは「慢性痛」と呼ばれます。通常、6ヶ月以上続くような痛みを慢性痛とします。しかし、それより短くても、ケガが治った後も続く痛みは慢性痛とされます。

  2. ケガをした選手は焦るもの
    ケガが治っているはずなのに、なぜ痛みが続くのでしょう。その原因の一つとして、精神的な不安、焦り、があげられます。
    ケガをした選手は、自分がケガで休んでいる間に誰かにレギュラーを取られてしまう恐れがあります。また、もしケガが治っても、ケガをする前と同じコンディションに戻れないかもしれません。また、たとえ同じコンディションに戻れたとしても、休んでいた間に実戦のカンが薄れているかもしれません。
    ケガをした選手は、このような不安や焦りを感じ続けるものです。


  3. 気持ちの緊張が痛みを大きくする
    不安、焦りといったマイナスの精神状態は、脳の中で「体によくない状態が起きた」と感知されます。すると、脳は自動的に「交感神経」を興奮させます。交感神経とは、いわば私たちの体を身構えさせて「戦闘体制」とらせる神経です。
    交感神経が興奮し続けると、反対の働きをする「副交感神経」の働きが抑えられてしまいます。副交感神経は、体をリラックスさせる神経です。交感神経が興奮し続けていると体の力がいつまでも抜けず、筋肉は緊張した状態を続けます。夜になっても十分に体を休めることができず、ぐっすり眠れません。
    不安や焦りがある人は、一日中、緊張が続き、血行も悪くなって筋肉が固くなり、たとえ治った部分でも動かすと「痛い」と感じてしまう場合があるのです。だからまず、慢性痛をつくらないためには、ケガが治っても不安や焦りの気持ちを持たないことが重要です。


  4. 知らないうちに痛みを言い訳にするパターン
    自分の成績が思うように伸びない時、また、ライバルにどうしても勝てない時があります。しかし選手は、なかなか素直に「自分に足りないところがある」と認めたくないものです。
    こんな時にケガをすると、ケガが治っても慢性痛になってしまうことがあります。それは、心の奥深い所で、ケガを自分の力の足りない部分の言い訳に使ってしまうからです。「この痛みさえなければ勝てる」というのは、心の奥底で「完全に治って勝負したら負けるかもしれない」と感じていることの、形を変えた表現である場合があります。
    ですから、慢性痛がある場合、自分の心と勇気を持って正直に向き合ってみることも必要なのです。

■痛い所と別の部分に原因があることも多い

  1. 人の動きはムチに似ている
    どこかに慢性痛があっても、痛みの原因がその部分にない場合があります。そのことを理解するには、人の体の動き方を理解しなければなりません。
    人の体の動きはムチに例えられます。ムチは、握った根元の部分を少し動かすだけで、先の部分は大きく動きます。根元でつくられた力が、太い方から細い方に伝わりながら、力も動きも次第に大きくなります。
    人の体も同じです。ボールを投げる動作を考えてみましょう。まず背骨の通っている体の中心でつくられた力が、腰、肩、肘、手首、指という順に伝わります。これは、ムチの力が太い部分から細い部分に伝わっていくのとよく似ています。


  2. 根元が固くなれば端は大きく動けない
    この力のつながりの中で、体の中心で少しでも動きが狭まるようなことがあると、その影響は端に行くほど大きくなります。
    分度器を思い出してください。例えば45度の角度でつくる「弧」は、分度器の中心に近い所より、分度器の外側の縁に近い所が長くなります。仮に、中心ではいつも45度動けていたとして、それが30度に挟まったらどうでしょう。分度器の外側に近くなるほど「弧」の長さの縮まり方が大きくなってしまいます。
    分度器の中心が背骨、外側の縁が手足と考えてみましょう。体の中心で動きが挟まれば、手足の動きはより大きく挟まってしまうことになるのです。体の中心近くの筋肉が固くなって骨や関節の動きを制限すると、その影響は体の端に行くほど大きくなります。しかし、手足ではいつもの通 りの動きをムリにしようとしますから、その筋肉に負担がかかり、痛みが出ます。


  3. 背骨の周りにポイントがある
    こんな時、痛くなった部分ばかりマッサージしても痛みは取れません。もっと体の中心に近いところに固くなっている場所がないか調べる必要があります。
    特に注意が必要なのは、背骨の周りです。全ての動きは背骨からはじまり、肩や腰を通 じて手足の動きをつくっていくと思ってもいいでしょう。背骨の周りの筋肉が固くなっていると、その影響が腰、膝、足首、あるいは肩、肘、手首に出やすいです。

■選手が自分でできる慢性痛の緩和

ここまで紹介した視点を頭に入れた上で、よく見られる慢性痛の和らげ方を見ていきましょう。
  1. 前にかがんだ時に痛む腰痛対策
    痛い場所が腰でも、背骨の近くに原因が考えられる場合があります。背骨には出っ張り(腰椎棘突起)があります。ちょうど胸の真後ろの出っ張り(図1)に上から順番に指を当て、そのつど前屈してみると、どこか一カ所、そこを押さえると腰の痛みが和らぐ場所があります。そこから指を外側にずらせて、肩甲骨の方に押して行くと、強く押さなくてもかなり痛みを感じる場所があります。そこを入念にマッサージしてみて下さい。腰の痛みが落ち着くはずです。痛みを感じた出っ張りと出っ張りの間に、直接、伸縮性のない直径2センチ位のテープを張っても効果が期待できます。



  2. 後ろに反った時に痛む腰痛対策
    後ろに反った時に腰が痛くなる場合、腰の骨の一部(腸骨)と、背骨(上から12番目の骨)との間についている筋肉(図2)が固くなっていることが考えられます。特に右、あるいは左に痛みが偏っている場合は、このことが原因でしょう。その部分をマッサージしてみて下さい。






  3. 膝の下の痛み
    膝のお皿の下の骨が盛り上がり、膝の屈伸やジャンプをする時に痛みがあるような場合、すねの外側の筋肉(つま先を上げると盛り上がる)が疲れて固くなっていることが痛みの原因である場合があります。その部分をマッサージしてみましょう。マッサージのかわりにデニバンを貼ってもいいでしょう。


  4. アキレス腱の痛み
    アキレス腱はふくらはぎの筋肉の延長ですから、ふくらはぎの固さをほぐすマッサージが必要です。アキレス腱ばかりに注意を集中させても効果が上がりません。マッサージの代わりにデニバンを貼ってもいいでしょう。

■最後に

最も大切なことはウォーミングアップ、クールダウン、ストレッチングなどを十分に行って筋肉に余分な負担を残さない努力をしておくことです。また、トレーニングや競技に耐えうる基礎体力づくりをしっかり行い、オーバートレーニングにならないよう無理のないトレーニング計画も必要です。慢性の痛みをつくる前の取り組みが重要なのです。